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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)852号 判決

住所 香港、

八二七号事件控訴人・八五二号事件被控訴人(以下単に第一審原告という)

クリシュナラル・ハクマトライ・グルラジャニイ

八五二号事件控訴人(以下単に第一審被告という)

株式会社坂崎商店 外七名

八二七号事件被控訴人・八五二号事件控訴人(以下単に第一審被告という)

平林眞一

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用中、昭和五二年(ネ)第八二七号事件に関する部分は第一審原告の負担とし、同第八五二号事件に関する部分は第一審被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  第八二七号事件について

(一) 原判決中、第一審原告敗訴部分のうち物件引渡請求を棄却した部分を取り消す。

(二) 第一審被告平林眞一は、第一審原告に対し原判決添付別紙相続財産目録記載の物件を引渡せ。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告平林眞一の負担とする。

(四) 右(二)項につき仮執行宣言

2  第八五二号事件について

(一) 本件控訴をいずれも棄却する。

(二) 控訴費用は第一審被告らの負担とする。

二  第一審被告ら

1  第八五二号事件について

(一) 第一審被告平林眞一を除く第一審被告ら

(1) 原判決中第一審被告平林眞一を除く第一審被告ら敗訴部分を取り消す。

(2) 第一審原告は、第一審被告株式会社坂崎商店に対し金六〇万円、第一審被告沢田巖に対し金五万円、第一審被告アドワニ・モーハン・シタルダスに対し金四八万五〇〇〇円、第一審被告富山県染工株式会社に対し金三〇万円、第一審被告有限会社ジエイ・キマトライ・エンド・コンパニー・ジヤパン・リミテツドに対し金四〇万円、第一審被告ダイヤラム・チヤンダマル・ラマニーに対し金三五万円、第一審被告神繊興業株式会社に対し金三〇万円、第一審被告朝日通商株式会社に対し金二〇万円及び右各金員に対する昭和四三年三月二八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 第一審被告平林眞一

(1) 原判決中、第一審被告平林眞一敗訴部分を取り消す。

(2) 第一審原告の請求を棄却する。

(3) 第一審原告は、第一審被告平林眞一に対し金二一八万五八八四円及びこれに対する昭和四三年三月二八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

(四) 右(一)(2)及び(二)(3)につき仮執行宣言

2  第八二七号事件について

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

第二当事者双方の主張は、次に付加するほか原判決事実摘示の当事者双方の関係部分と同一であるからこれを引用する。

(第一審被告らの主張)

一  法例二五条によれば、相続は被相続人の本国法による。本件における被相続人の本国法は、英国法であるところ、英国法によれば、被相続人死亡当時英国内に存在する動産・不動産はその人格代表者(パーソナル・レプレセンタテイブ)に帰属するが、英国外に存在する相続財産はその所在地国の法令に服する。そして本件被相続人の住所地たる殖民地香港は英国法上外国とみなされる。

したがつて、本件における相続財産は、第一審原告とその母クンデバイの両名(共同相続人)に直接帰属する。

二  英国殖民地検認法(一八九二年公布)二条によれば、英国殖民地裁判所が発布した相続財産管理状は、英本国検認裁判所に提出してその奥書認証をうけなければ英国裁判所の発布した管理状としての効力を有しない。

第一審原告の所持する香港裁判所の管理状は、右認証を欠くから無効である。

第三証拠関係〔省略〕

理由

一  当裁判所も第一審原告の請求を原判決主文第一項掲記の限度で認容し、その余を棄却し、第一審被告らの請求をいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加するほか、原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  第一審被告らは、本件における相続財産は、第一審原告とその母クンデバイの両名(共同相続人)に直接帰属すると主張するが、法例二七条三項により本件においては香港の法令によるべきところ、香港で施行されていたイングランドの普通法、衡平法に準拠し、イングランド一六七〇年制定の遺産分配法が適用され、被相続人の相続財産は直接相続人に帰属せず、一旦被相続人の人格代表者たる遺産管理人に移転するというべきである。

したがつて、本件相続財産が相続人に直接帰属する旨の第一審被告らの右主張は採用できない。(原判決二二枚目表八行目から二四枚目表六行目までのとおり。)

2  第一審被告らは、香港最高裁判所が第一審原告に発布した本件相続財産管理状には英本国検認裁判所の奥書認証が欠けているから右管理状は無効であると主張するが、成立に争いのない乙第七三号証の一、二によると、右奥書認証の欠缺が英本国内において英本国裁判所の発布した管理状としての効力を有しないことが認められるにすぎない。

したがつて、右欠缺により英本国内の財産に対しては無効事由になるとしても、香港所在の財産及び日本国内に所在の財産に対してまで無効とすべき証拠はない。

よつて、第一審被告らの右主張は採用できない。

二  以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、民訴法八九条、九三条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 惣脇春雄 山本博文)

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